夜明けの樹氷原 撮影体験記

 夜明けの樹氷原シリーズ」の撮影は過酷だった。

 夜明けを撮るには
 リフトやゴンドラも寝静まった夜中に登るしかない。
 蔵王の雪山を大型カメラを抱えて登るしかない。
 だから夜中の1時頃に天気予報を確認し
 100%晴れという時でなければ断念するしかない。
 だが、山の天気は全くあてにならない。
 そこで前日の夕方、蔵王の様子をよく観 察する。
 蔵王に雲が全くないことを、この目で確かめるのだ。

 午前1時。天候の条件は万全だ。
 こんな日はシーズン中、1回あるかないか。
 この日を待ちこがれていた私には・・
 プロのサーファーのいう「ビッグウェーブ」と重なる。

 いざ出陣!
 急いで準備をして、車で蔵王に向かう。
 黒姫ゲレンデの駐車 場に2時過ぎに到着。
 機材は重い。カメラはスタジオ用大型(4×5)の重いやつ。
 三脚も軽いのでは間に合わないので重いものだ。
 ゲ レンデをちょっと登っては息が切れ心臓が爆発しそうになる。
 普段の運動不足がたたる。他に歩いている人はだれもいない。
 夜中の樹氷原は恐ろしい。スノーモンスターと 言われるだけあって
 いろんな姿が闇の月明かりに照らされる。
 強風がモンスターの叫び声になって、恐怖をいっそう募らせる。
 昼に見る美しい光景はそこにはない。
 撮影地点に到着。まだ夜明けまでは時間がある。
 熱くな った身体は歩くのをやめたとたんに寒くなる。
 山頂付近は 晴れていても一層の強風が吹き荒れる。
 寒い。誰もいない。
 凍えながらじっと夜明けを一人待つ。

 東から太陽が昇った。いざ撮影だ。
 この時ばかりは撮影 に集中できるので寒さは忘れてしまう。
 しかし、ちょっと 手袋を外すとすぐに指の感覚は全くなくなってしまう。
 指 を棒のようにしてカメラのセットをする。
 大型カメラは自動になるものは1つもない。
 ピントを合わせ、露出を計り、
 絞りとシャッタースピードを調整し、フィルターをセット。
 そのときフィルターが強風で飛ばされた。
 もう拾うこと もできない。すぐに予備のものをつける。
 カメラはブル ブル震えている。このまま撮ればぶれてしまう。
 レンズを 手で押さえながら必死でシャッターを押す。
 樹氷原に朝日 がさっと差し込んだ一瞬だ。

 写真では穏やかに見える「樹氷原」・・・
 それとはうらはらに
 蔵王の激しいまでの美しさ。容赦なく突きつける無言のメッセージ。

 「夜明けの樹氷原」は
 新しい今日の迎え方を毅然と教えてくれました。

                      撮影/齋藤貞幸

 


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